なんかさかな

ますおさんも番組中は言わないが車が欲しいのだ。誰だって我慢しているのだ。
今日も失敗を犯し、やや落ち込んで家路。夜飯を買いにコープに寄る。半額になった寿司弁当が一つ残っていた。
「わーやったー、やったー、やったー」
子供っぽく大げさに喜んでみる。小声で。一見しょうもない行動だが、不思議とこれで気分が一転する。
生まれて初めてイクラを残さず食べた。食いはじめから一粒ずつ減らしていったのがその勝因だった。僕は鳥類の卵は大好きだが魚類の卵は大の嫌いだ。味が変だからだ。そんな僕の箸が、多少の躊躇はあるにせよ、イクラにのびていくようになったのには、大きな理由がやはりある。それは長年にわたる、日本人たちによる催眠術だ。テレビでイクラが出てくると、もれなくその場にいる人間たちがよだれをたらしだす。カメラもアップになる。「うまそー」と遠くで言っている。
うまそうに見えてくる。
イクラに出会うたびにその画を思い出し、イクラに箸がのびていく、ゆっくり一粒口の中に入れ、アホみたいに美味いはずだ、と思いながらプチッとわってみる。やはり変な味が口の中に広がる。そして「まただまされた」と後悔する。これを幾度も繰り返すうちにイクラの味に慣れていったのだ。
このようにして、無意識のうちに少しずつ、常識というものに近づいていっているのだろうか。